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(土・日・祝祭日及び当社休日を除く)
座談会
がんゲノム医療の
均てん化を目指して
日時:2022年8月19日金曜日 18:30~20:00
開催形式:リモート形式
【司会】
石岡 千加史 先生
東北大学大学院
医学系研究科
臨床腫瘍学分野 教授
【出席者】
奥川 喜永 先生
三重大学医学部附属病院
ゲノム診療科 教授
【出席者】
小峰 啓吾 先生
東北大学病院
腫瘍内科 病院講師
【出席者】
堀口 繁 先生
岡山大学大学院
岡山県南西部(笠岡)
総合診療医学講座/
総合内科/消化器内科
准教授
(五十音順)
がんゲノム医療推進に向けた各施設での取り組みのポイント
◆三重大学医学部附属病院
• がんゲノム医療提供体制:ゲノム診療科および腫瘍内科の外来担当医がパネル検査の全プロセスに対応
• 県内にゲノム連携病院はなく、がん診療にかかわる非ゲノム連携病院との連携によりがんゲノム医療普及を推進
• 非ゲノム連携病院の主治医へ最新情報を継続的に提供することで、パネル検査実施症例数は増加傾向を示す
• 各非ゲノム連携病院からの相談窓口として「三重がんゲノムホットライン窓口」を設置
◆東北大学病院
• がんゲノム医療提供体制:各診療科がパネル検査における紹介患者の受け入れから検査オーダーまでを行う
• エキスパートパネル効率化のため事前検討可能な支援システムを導入
• がんゲノム関連病院は東北地方全体で中核拠点病院1施設、拠点病院2施設、連携病院7施設と少なく、地域での連携を推進
• 患者紹介における地域連携促進のため、専用申込書・紹介フォーマット作成や研修会開催などに取り組む
• 胆道癌においては早いタイミングでのパネル検査実施を推進
◆岡山大学病院
• がんゲノム医療提供体制:各診療科のがんゲノム医療外来担当医がパネル検査やエキスパートパネルなどに対応
• エキスパートパネル前日にプレエキスパートパネルおよび遺伝子医療部門会議で症例の事前検討を行う
• 胆膵癌領域では、医局員が派遣されている関連病院(非ゲノム連携病院を含む)との円滑な連携により、がんゲノム医療の均てん化が進んでいる
• 薬剤到達性の向上を図るため、患者申出療養に関する取り組みを推進
がんゲノム医療の均てん化に向けた課題
がんゲノム医療の均てん化に向けた課題のポイント
• 令和4年度の診療報酬改定により、がん遺伝子パネル検査に関する課題の一部は改定されたが、検査のタイミングや回数などについては改定の要望を継続していく必要がある
• がんゲノム医療推進に向けては、がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院とがん診療連携拠点病院・小児がん拠点病院等との連携強化が重要な課題である
• がん薬物療法の格差要因としてがんゲノム医療が加わったことから、均てん化に向けて格差問題への対策が求められる
がんゲノム医療の重要性〜臓器横断的がん薬物療法時代の幕開け
石岡 近年、がん薬物療法は急速に進歩し、肺癌のように遺伝子変異ごとにアンブレラ型に治療薬が開発されているがん種がある一方で、がん種に関係なく臓器横断的に遺伝子変異により共通の治療薬が開発されるバスケット型治療薬開発が行われるようになってきました。わが国では、MSI-High、NTRK融合遺伝子、TMB-Highを有する固形癌における臓器横断的な薬物療法が日常診療でも実用化され、さらにBRAFV600E、HER2(ERBB2)、BRCA1/2、ALK融合遺伝子を有する固形癌に対する治療薬の臓器横断的適応が近い将来、承認される可能性があります。加えて、FGFR2融合遺伝子、KRASG12C変異も臓器横断的な展開の可能性が期待されており、臓器横断的がん薬物療法は一層進展していくことが予想されます。
また、難治癌の胆道癌においては化学療法が標準治療とされていますが、治療標的となり得る遺伝子異常の同定により臓器横断的な分子標的治療薬の開発が相次いで進められています1)。米国では、切除不能進行・再発胆道癌においてBRAFV600E変異、IDH1/2変異およびFGFR融合/再構成を標的とした新しい治療戦略が提案されており2)、ゲノム解析からバイオマーカーによる治療へという新たな時代を迎えています。
がんゲノム医療を取り巻く動向と課題
石岡 わが国におけるがん遺伝子パネル検査(以下、パネル検査)の検査数は、2019年に保険診療が開始されてから増加傾向にあります3)。一方、保険収載後のパネル検査に関する診療報酬上の課題として、図1に示すことが挙げられます。これらのうち、診療報酬区分、検体提出時および結果説明時に関しては学会等からの要望が実り、令和4年(2022年)度の診療報酬改定において見直しが行われました4)。しかし、検査のタイミングが標準治療終了時またはその見込み時に限定されている、病理医のレポートが評価されてない、算定可能な検査回数が1回のみであるなど実態に即した評価がいまだなされていない課題があることから、パネル検査の普及に向けて改定の要望を継続していく必要があります。
また、厚生労働省は全国にがんゲノム医療中核拠点病院(以下、ゲノム中核拠点病院)を12カ所、がんゲノム医療拠点病院(以下、ゲノム拠点病院)を33カ所指定し、これらの病院と連携するがんゲノム医療連携病院(以下、ゲノム連携病院)を188カ所公表しています(2022年9月1日現在)5)。全国のゲノム中核拠点病院・拠点病院・連携病院でパネル検査が実施され、集約化によるがんゲノム医療提供・情報収集体制が構築されていますが、がんゲノム医療の均てん化に向けてはがん診療連携拠点病院および小児がん拠点病院等との連携強化が重要な課題であると考えます(図2)。国のがん対策推進基本計画において、都道府県がん診療連携拠点病院で専門医を養成して地域がん診療連携拠点病院に派遣し、腫瘍内科を開設することでがん薬物療法の均てん化を図るという取り組みが進められてきました。しかし、新たな格差要因としてがんゲノム医療が加わり、標準的ながん薬物療法の提供が可能な地域がん診療連携拠点病院においてもゲノム連携病院以上の指定を得ないとパネル検査を行えないことから、患者さんをより高度な病院に紹介しなければなりません。こうした背景から、ゲノム中核拠点病院・拠点病院・連携病院以外の病院ではがんゲノム医療が普及しておらず、格差問題への対策が求められます。


三重県におけるがんゲノム医療推進の取り組み
三重大学医学部附属病院における取り組みのポイント
がんゲノム医療提供においては、ゲノム診療科および腫瘍内科の外来担当医がパネル検査の全プロセスに対応する体制で取り組んでいる。
県内にゲノム連携病院のない環境において、がん診療にかかわる非ゲノム連携病院との連携を推進しており、主治医に対して最新情報を継続的に提供する工夫を図ったことでパネル検査実施症例数は増加傾向にある。さらに、各非ゲノム連携病院に相談窓口担当を設置するなど、対策を講じている。
三重県におけるがんゲノム医療普及に向けた活動の歩み
奥川 当院は2019年9月よりゲノム拠点病院に指定されていますが、残念ながら県内にゲノム連携病院の要件を満たす施設は皆無というのが現状です。2019年12月にがんゲノム医療と臨床遺伝を行う部門として「ゲノム医療部」を新設して以来、がんゲノム医療の普及に向けて県内のゲノム連携病院以外のがん診療にかかわる病院(以下、非ゲノム連携病院)17施設の代表医師、院内のがん診療にかかわる全診療科および看護部・医事課を対象にパネル検査に関する説明会をそれぞれ開催してきました。しかし、保険診療によるパネル検査実施症例数は微増であったことから、非ゲノム連携病院ごとに関係者を対象としたWeb説明会を開催するほか、主治医が連携しやすくするための工夫として、①当院紹介時には患者さん自身が問診表と家系図を記載して持参する、②診療情報提供書が送られてきた際には初診の外来予約を1週間以内にとる、③「三重がんゲノムホットライン窓口」を開設してパネル検査のみならずがん薬物療法や遺伝性腫瘍・遺伝性疾患など医療従事者からの相談にメール・電話で応じる、④県内のがん専門相談員向け研修会の開催や患者さん向け高額療養費制度解説書の作成により紹介患者さんの金銭的不安の軽減に努めるなどしてきました。さらに、2020年9月より「三重大学ゲノム医療部ニュース」(以下、がんゲノムニュース)の定期発刊を開始し、パネル検査の症例数推移や薬剤選択につながった症例などに関する最新情報を非ゲノム連携病院の主治医などに提供しています。この取り組みはパネル検査に対する意識向上にもつながり、がんゲノムニュース発刊翌月にはパネル検査の院外紹介例が増加する傾向がみられます。また、各病院単位での経過報告会(Webまたは対面)を継続することで、主治医の先生方と顔の見える関係の構築に努めてきました。そのほか、患者さんへの説明時の資料としてご活用いただけるよう、がんゲノム医療の基礎知識からパネル検査に基づく治療まで、患者さん向けにわかりやすく解説した当院の広報誌を三重県内の病院に配布しています。
こうした取り組みの結果、パネル検査実施症例数は順調に増え、2022年7月までに629例に保険診療によるパネル検査を提供し、その半数以上が院外からの紹介例となっています(図3)。しかし、紹介症例数は非ゲノム連携病院間でばらつきがあり、三重県の地域がん登録状況を考慮すればさらなる増加が見込めると考えています。

三重大学医学部附属病院におけるがんゲノム医療運用の実態
奥川 当院は京都大学および愛知県がんセンターと病院間連携協定を結び、各病院で開催されるエキスパートパネルに毎週Webで参加することでエキスパートパネルの質向上に努めるとともに、治験実施施設との連携を強化することでパネル検査の出口を少しでも広げるよう取り組んでいます。パネル検査の提供においては、ゲノム診療科および腫瘍内科の外来担当医がすべてのプロセスに対応する完全中央管理型のシステムで行っています(図4)。当院における保険診療のパネル検査によって薬剤選択につながる症例の割合は14.5%(73/504例)であり、全国平均の8.1%(607/7,467例)6)をやや上回っています(図5)。また、全症例の病的変異についてデータベース管理を行っており、後に開始された治験や保険適用拡大薬剤の対象候補者となる患者さんの拾い上げに活用しています。
さらに、エキスパートパネル参加者である当院の非常勤勤務医(腫瘍内科以外の医師を含む)が各非ゲノム連携病院で外来診療を行うときに相談窓口となり、気軽に相談に応じることができる体制づくりにオール三重大学で取り組んでいるところです。また、当院は三重県のがん患者さんの集約化を進めるとともに、県外治験施設紹介への窓口として機能し、がんゲノム医療の地域における連携強化を推進しています。一方、最近ではケーブルテレビを用いてパネル検査のメリットなどを伝える広報活動も展開しています。そして、がんゲノム医療の普及に向けては、がん遺伝子パネル検査を受けても自分に合う薬の使用に結びつかなかった方への配慮(図6)が重要であり、ゲノム医療部ではスタッフ総出で行っています。



がん遺伝子パネル検査を広めるためには
奥川 パネル検査がなかなか広がらないのは、検査を発注する側(ゲノム中核拠点病院・拠点病院・連携病院)と検査目的で紹介する側(非ゲノム連携病院の主治医)において、それぞれがんゲノム情報管理センターおよび検査発注先へ詳細な臨床情報の提供を行わなければならないという問題があるほか、検査を行っても薬が見つからない可能性が極めて高いといったハードルがあるためと考えられます。このような状況に鑑み、作成が煩雑な紹介状を準備して当院への受診を勧めてくれた主治医の気持ちを代弁して患者さんに伝えるなど、患者さんを中心とした医療従事者間の信頼関係を醸成することががんゲノム医療の普及につながると考え、活動を続けています。
東北エリアにおけるがんゲノム医療推進の取り組み
東北大学病院における取り組みのポイント
がんゲノム医療提供においては、各診療科がパネル検査における紹介患者の受け入れから検査オーダーまでを行い、支援システム導入によりエキスパートパネルの効率化を図っている。
がんゲノム関連病院は東北地方全体で中核拠点病院1施設、拠点病院2施設、連携病院7施設と少なく、患者紹介における地域での連携促進のため、専用申込書・紹介フォーマット作成や研修会開催などに取り組んでいる。また、胆道癌においては早いタイミングでのパネル検査実施を推進している。
東北大学病院におけるがんゲノム医療運用の実態
小峰 当院は、東北地方唯一のがんゲノム医療中核拠点病院であり、5つの連携病院(岩手医科大学附属病院、秋田大学医学部附属病院、宮城県立がんセンター、福島県立医科大学附属病院、さいたま赤十字病院)と協力してがんゲノム医療を行っています。東北地方全体としては連携病院が少なく、がんゲノム医療の均てん化は極めて重要なテーマになっています。
当院におけるエキスパートパネル(保険診療)実施件数は増加傾向にあり(図7)、2022年8月には月100件近くに上りました。週1回開催しているエキスパートパネルを効率よく進めるため、当院では日立製作所と共同で開発した支援システムを用いて事前検討を行っています。クラウド上の支援システムに結果の解釈に必要なデータ(臨床情報、検査会社レポート、C-CAT調査報告書、当院のTUHレポート)をアップロードすることで事前検討が可能であり、その週のエキスパートパネルを担当する当院の医師と連携病院の医師が各症例にコメントを入力し、それを受けて当院のエキスパートパネル責任担当医がサマリーコメントを作成します。エキスパートパネル当日は、事前に作成されたサマリーコメントをもとに議論を行っていきます。また、支援システム上のデータはエキスパートパネル開催後も閲覧することができ、データベースとしての機能も有しています。
パネル検査の実施にあたっては、各診療科が出検まで対応し、その後は個別化医療センターに所属しているがんゲノム医療コーディネーター(看護師、遺伝カウンセラー等で構成)が検査オーダーの一括管理を行っています(図8)。さらに、個別化医療センターにおいて検査結果の一括管理やエキスパートパネルの準備を行い、エキスパートパネルの結果を各診療科の外来担当医が説明する際に必要に応じて遺伝カウンセラーが同席するという体制でパネル検査を行っています。


患者紹介における連携促進に向けた取り組み
小峰 当院では、他院からの紹介を円滑に行うため、パネル検査目的用の専用申込書、C-CAT入力項目に即した専用紹介フォーマットを作成して適切な臨床情報の収集に努めるほか、パネル検査について解説した患者説明用パンフレットを作成して県内の病院に配布するといった工夫を図っています。また、当院個別化医療センターのホームページにはパネル検査に関する一般・患者向けおよび医療機関向けの情報を掲載しており、医療機関向けの紹介方法の案内において「リキッドバイオプシーでは輸血後3~4週間以降の検査提出が推奨される」など詳細な情報を発信しています。さらに、医師限定および医療従事者養成Web研修会を行ってがんゲノム医療に関する情報を共有したり、市民公開講座でがんゲノム医療の啓発を定期的に行ったりという活動にも取り組んでいます。医療従事者養成Web研修会には、400〜500名と多くの方々に参加いただいているという現状です。
がん遺伝子パネル検査の実績と今後の見通し
小峰 当院でのエキスパートパネル実施件数はがん種によって異なり、2021年9月~2022年5月の総件数630件のうち大腸癌(13%)が最も多く、次いで膵癌および前立腺癌(各12%)、胆道癌(9%)と続きます。胆道癌および前立腺癌におけるパネル検査実施件数は薬剤の保険適用に伴い増加傾向を示しており、治療提案が可能な症例が増えることが検査数増加につながっていると考えられます。パネル検査を行うタイミングについては、各がん種のガイドライン等を参考に判断することが推奨されており、例えば胆道癌において当院では「ファーストライン治療施行中より検査の提出が可能」と判断しています(図9)。実際、胆道癌患者においてパネル検査が実施されているタイミングについて調べたところ、治療開始から検査までの期間の中央値は6ヶ月であり、院外からの紹介症例を含めて早いタイミングで行われていることがわかりました(図10)。また、当院で提出された検査について、胆道癌は胆道癌以外のがん種に比べて紹介症例の割合が高く、積極的な紹介が行われていることが示唆されます(図10)。
一方、早いタイミングでパネル検査を実施していくようになれば、検査で得られた遺伝子変異に対する新規治験が後から始まった場合にどう対応するかという問題に直面します。データベースをもとにいかにして当該患者に対する新規治験の提案を行うかは、重要な課題です。また、新規治験に関する情報を紹介元の病院あるいは患者さん自身が把握できるようになれば、治験参加につながるケースがより増えるのではないでしょうか。そして、パネル検査実施件数の増加に伴い、エキスパートパネルの省略・簡略化が期待されることから、日本臨床腫瘍学会作成のマニュアル4)に準じて体制を整備し、今後の症例増加に対応することが重要と考えています。


中国・四国エリアにおけるがんゲノム医療推進の取り組み
岡山大学病院における取り組みのポイント
がんゲノム医療提供においては、各診療科のがんゲノム医療外来担当医がパネル検査やエキスパートパネルなどに対応し、エキスパートパネル前日にはプレエキスパートパネルおよび遺伝子医療部門会議で症例の事前検討を行っている。
胆膵癌領域では、医局員が派遣されている中国・四国地方の関連病院との円滑な連携によってがんゲノム医療の均てん化が進んでいる。また、薬剤到達性の向上を図るため、患者申出療養に関する取り組みを推進している。
岡山大学病院におけるがんゲノム医療運用の実態
堀口 当院は伝統的に内科と外科の垣根が低く、胆膵癌診療においてはいかなる症例も外科から消化器内科にご紹介いただき、術前・術後の薬物療法、切除不能症例の薬物療法のすべてを当科胆膵グループが担っています。胆膵癌診療の集約が可能となっている当院では、がんゲノム医療の窓口として「がんゲノム医療外来」を設置し、各診療科のがんゲノム医療外来担当医がパネル検査やエキスパートパネルなどに対応する体制を構築しており、当科胆膵グループではがん薬物療法専門医・指導医である私(患者申出選考員兼務)と基礎研究医1名がその役割を担っています(図11)。また、ゲノム医療総合推進センターは各科専門家によるがんゲノム医療の中心となり、プレエキスパートパネルおよび遺伝子医療部門会議を開催した後にエキスパートパネルを行うという体制が整っています(図12)。エキスパートパネル当日は、1症例あたり3~5分かけて検討し、最近では30例以上検討することもあります。胆膵グループが担当する肝胆膵癌症例のエキスパートパネル実施症例数は、週平均11例(院内症例3例、院外紹介症例8例)です。エキスパートパネルでは、各領域の専門医が検出される可能性のある遺伝子変異について文献などに基づき解説するミニレクチャーを行い、がんゲノム医療促進につなげています。


中国・四国エリアにおけるがんゲノム医療推進の現状
堀口 ゲノム中核拠点病院である当院と連携するゲノム連携病院は大学病院などを含む20施設であり、特に胆膵グループメンバーが派遣されている関連病院では円滑な情報共有がなされていることも影響し、紹介症例数が比較的多いのが現状です。また、ゲノム連携病院以外の関連病院(以下、非ゲノム関連病院)ともスムーズな連携が図られています。ゲノム連携病院と非ゲノム関連病院に対しては、患者紹介促進に向けて異なる取り組みを展開しています。ゲノム連携病院に対しては、エキスパートパネル司会者およびゲノム連携病院担当医を対象としたWebによる「連携病院説明会」を月1回30分行い、パネル検査数の推移のほか患者申出療養制度や先進医療に関する情報などを提供しています。一方、非ゲノム関連病院に対しては、担当医と直接連絡を取り合いながら相談事項に一つ一つ丁寧に対応しており、臨床遺伝部門(遺伝性疾患の診療)との連携や患者申出療養制度に関する情報提供もスムーズに行えています。このように、胆膵癌領域においてがんゲノム医療の均てん化が進んでいる理由としては、500床を超える病床数を有する関連病院と顔の見える関係を築けていることが大きいと考えています。
そのほか、がんゲノム医療の普及促進のため、学会・研究会等における実績データのアウトプットや各病院のカンファレンスにおける出検依頼と双方向の情報共有などに取り組んでいます。
がんゲノム医療推進事例(胆道癌)の紹介
堀口 当院において、2018年4月~2022年7月にエキスパートパネルで検討した胆道癌症例229例の推移は図13のとおりであり、2022年末には年間検討症例数が100例を超えることが予想されます。胆道癌症例における発生部位別にみた薬剤到達可能な遺伝子変異は、図14のとおりです。なお、複数の遺伝子変異を有する症例もあるため、結果として肝内胆管癌で67変異57例(46%)、肝門部領域胆管癌で7変異6例(32%)、胆嚢癌で16変異16例(35%)、遠位胆管癌で13変異13例(31%)、全体で229例中92例(40%)にdruggable変異を同定していると推測されます。また、これらのデータはデータベースで管理していますので、例えば肝内胆管癌において高頻度に検出されるIDH1変異に対して米国で承認されているivosidenib(本邦未承認)の日本での使用が可能となった場合には、主治医に連絡して治療につなげていくことができます。


患者申出療養に関する取り組みと今後の課題
堀口 中国・四国地方は治験にアクセスしにくい地域であり、薬剤到達性の向上において患者申出療養は重要なGenome matched therapyの一つとなります。当院では患者申出療養に関する取り組みとして、前述した連携病院説明会で対象となる医薬品について説明を行うほか、エキスパートパネル開催にあたり患者申出療養制度を利用した治療が実施可能であると思われる症例に関しては、エビデンスを調べてレポートに記載し、開催時に患者申出療養制度の利用について言及するようにしています。患者申出療養制度の利用可否の判定のために、経験が豊富な四国がんセンターの医師との合同ミーティングを月1回開催し、現在進行中の患者申出療養制度利用症例の治療内容も含めて議論する、といったことを行っています。
また、がんゲノム医療を普及させていく上での今後の課題としては、検体材料の検査提出可否についての施設間格差の是正、患者申出療養制度において有効であった薬剤コホート終了後の保険承認の実現、治験施設の拡充と治験情報へのさらなるアクセスの改善、Liquid biopsyとその他の検査のコンパニオン診断や患者申出療養の要件の差に関する知識の普及が挙げられると考えます。
ディスカッション
〜がんゲノム医療均てん化推進における課題克服に向けて〜
石岡 各ご施設における取り組みの現状から、がんゲノム医療均てん化に向けた課題が浮き彫りになってきました。治験薬・臨床試験へのアクセスは、特に都市部から離れた地域では治験を担う施設へアクセスしにくいこともあり、大きな問題です。希少がん・希少フラクションに対する治験を効率的に推進する上で、どのような対策が必要でしょうか。
小峰 治験を行える施設を増やすのはもちろんのこと、愛知県がんセンターで実施されているようなリモート治験の導入も検討していく必要があると思います。
奥川 治験がさまざまな病院で行えるような体制を整えるには、がん薬物療法専門医が治験にしっかり関与できるようにするための教育推進や、他施設の治験実施経験が豊富な医師と臨床情報の共有を図るグループワークを行うといった、顔の見える関係を構築する新たな取り組みを進めていく必要があるのではないでしょうか。
堀口 既往歴や家族歴などの臨床情報のみからでは囲い込むことができていないdruggable変異に関しては、「どのような症例にがんゲノム検査を行うべきか」という理解が進むと臨床医のがんゲノム医療に対するモチベーションも向上すると思われます。これらに関して、臨床病理学的解析を踏まえた研究を進めていくことも大事であると考えます。
石岡 がんゲノム医療を発展させるには、分子生物学・遺伝学の基礎知識が必要であると思われます。将来のオンコロジー領域を担う若者たちにそういった知識が身につく場や機会を提供していくことも、がんゲノム医療の均てん化においては大切ではないでしょうか。
Take Home Message
〜がんゲノム医療均てん化に向けたポイント〜
• 三重大学医学部附属病院、東北大学病院および岡山大学病院では、がんゲノム医療の均てん化に向けて、各施設・地域の実情に応じた取り組みを展開している
• 地域におけるがんゲノム医療普及の促進に向けて、医療従事者や患者への啓発活動のほか、がん診療に携わる主治医らとの顔の見える関係の構築が重要であり、パネル検査の実績等に関する最新情報を継続的に共有する、連携先の各施設に相談窓口を設置する、関連病院の担当医と直接連絡を取り合うなどの工夫が図られている
• パネル検査実施症例数の増加に伴い、エキスパートパネルの事前検討を行って効率的な運用につなげている
• パネル検査実施による薬剤到達性を向上させるために、治験実施施設との連携強化、後の新規治験・新規薬剤の提案に向けたデータベース等の管理、患者申出療養に関する取り組みなどが行われている
• がんゲノム医療の普及に向けては、治験施設の拡充、治験情報へのアクセス改善をはじめとするさまざまな課題がある
• 将来を見据え、オンコロジー領域に進む若者たちが分子生物学・遺伝学の基礎知識を習得できる環境を整えることは大事である
参考文献
1)Ciardiello D, et al. Int J Mol Sci. 2022; 23(2): 820.2)Scott AJ, et al. J Clin Oncol. 2022; 40(24): 2716-2734.3)国立がん研究センター・がんゲノム情報管理センター「がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査」
https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/registration_status/(2022年9月26日時点)4)公益社団法人日本臨床腫瘍学会. がんゲノム医療におけるエキスパートパネルを効率的かつ効果的に運用するためのマニュアル 第一版 2022.7.4.5)厚生労働省. 「がん診療連携拠点病院等」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/gan/gan_byoin.html(2022年9月26日時点)6)令和3年3月5日 厚生労働省健康局 がん・疾病対策課. 「遺伝子パネル検査の実態把握調査の報告」
https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000748554.pdf(2022年9月26日時点)