Vol.1 北海道大学病院 看護部/がん遺伝子診断部
看護師 平舘 ありさ さん

治療が効いた喜びや次のステップへ進む患者さんの姿を力に

遺伝子情報に基づく個別化治療が進むなか、メディカルスタッフに期待される役割は大きいものがあります。本シリーズでは、多職種連携により、がんゲノム医療を力強くサポートする取り組みについて、各職種の方々からご紹介いただきます。第1回は、600件を超えるCGP検査を実施されてきた北海道大学病院からのレポートです。
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CGP検査の実績:Common cancerだけでなくrare cancerも

保険診療が始まった2019年8月から2023年3月1日までに、北海道大学病院で行われたがんゲノムプロファイリング(CGP)検査は612例でした。外来を受診された方の男女比はほぼ同じで、年齢は0歳から83歳、年齢中央値は61歳、40歳未満の小児・AYA世代は11%を占めています。

疾患別の検査件数では、2022年7月までに北海道大学病院と連携病院を合わせて行われたエキスパートパネル症例で多かったのは、大腸がん、膵臓がん、胆道がんでした。しかし、肉腫や頭頸部がん、神経内分泌がんなど希少ながんも他がん種と同様の割合で含まれており、common cancerだけではなくrare cancerも積極的にCGP検査が行われています。

治療実施率と治癒到達率

エキスパートパネル後の治療到達率については、2023年3月1日までに北海道大学病院と連携病院を合わせたデータでは、遺伝子変異に基づく治療を実施した人は8%とされており、がんゲノム情報管理センター (C-CAT)のHPでみられる全国平均9.4%よりはやや低い結果となっています。

がんゲノムチームの構成と役割:多くの部門の専門職が連携

図のように、当院ではがん遺伝子診断部を中心に、たくさんの部門の専門職と調整・連携をしながら診療を行っています。

がん遺伝子診断部では、各診療科、病理部、看護部などさまざまな部署と協働し、診療を行っています
がん遺伝子診断部では、各診療科、病理部、看護部などさまざまな部署と協働し、診療を行っています。

検査希望の場合:がん相談支援センターが患者さんの窓口に

患者さん自身ががん遺伝子パネル検査を希望される場合、当院ではがん相談支援センターが窓口となっています。医療機関に関しては、予約部門(医事課新来予約受付担当・紹介予約)に診療情報提供書をFAXしていただければ、チームで保険診療の対象となるかの検討や、治療ライン、組織の有無などを確認し、予約調整を行っています。また、Liquid検査の場合は受診のタイミングが大事なので、受診のタイミングも調整しています。保険診療の対象かどうか迷っているなどの場合には、がん相談支援センターやがん遺伝子診断部へ連絡いただければ、医師や看護師が窓口となり相談させていただいています。

検査希望の場合
当院の外来は組織で検査を行う場合、3回の受診を必須としており、CGMCは予約調整の前から検査終了後まで多くの役割を担っています。

チームができるまでの工夫:役割の明確化とチームミーティングでの情報共有

北海道大学病院では2016年4月に「がん遺伝子診断部」が設置され、自費診療によるがん遺伝子パネル検査の専門外来を行っていました。私が専門外来に配属された2017年11月時点では、医師(病理医含む)と事務員の数名で診療が行われていました。看護師は前職におらず、私自身も「がんゲノム医療」に携わるのが初めてであり、医師の診察に同席をしたり、医師に教わりながら勉強しました。同時に検査の業務基準やマニュアルを作成しました。この頃、がんゲノム医療に携わる看護師を養成するために、4名の看護師ががんゲノム医療に関する院外の勉強会などに参加しました。

2018年2月には、北海道大学病院ががんゲノム医療中核拠点病院に指定され、保険診療へ向けた体制の準備を進めました。2019年6月からは看護師(CGMC:がんゲノム医療コーディネーター)が2名体制となり、8月より固形がん患者さんを対象とした保険診療による組織でのCGP検査を開始しました。

保険診療開始に伴い各検査のマニュアルを作成し、医師を中心に検査がスムーズに進むよう各関連部署と話し合いを重ね、各々の役割を整理し明確化しました。2023年10月現在、医師5名(兼任1名)、看護師3名(CGMC、外来業務と兼務)、治験コーディネーター(CRC) 1名、事務員2名体制でCGP検査における診療を行っています。チームとして、がん遺伝子診断部スタッフで週1回、医師と看護師、診療録情報管理士で週1回、医師と臨床遺伝子診療部で週1回、その他必要時に関連部署とミーティングを行い、患者情報の共有などを行っています。

Caseをもとに考える今後の課題:CGP検査のタイミングの重要性

Aさん、50歳代、男性、大腸がんステージ4 多発肺・肝転移あり。PS=0

大腸がんの標準治療が終了したのちにCGP検査を施行。2ヵ月後のCGP検査説明時、病状の進行があり、PS=2~3となっていた。CGP検査結果にて、遺伝子変異が見つかり、患者申出療養*も検討されたが、採血結果で肝機能上昇、PS低下があり、薬剤の使用には結びつかなかった。

現在の大腸がんの学会ガイドラインではCGP検査は、切除不能進行再発大腸がんの患者さんに対し、一次治療開始後から後方治療移行時までの適切な時期に行うことが望ましいとされています。適切な時期にCGP検査を行うことで、Aさんは新たな治療薬にたどりつけた可能性があり、検査の受検のタイミングはとても大事であると考えられます。

*未承認薬などを迅速に保険外併用療養として使用したいという患者さんの思いに応えるため、患者さんからの申出を起点とし、安全性・有効性などを確認しつつ、できる限り身近な医療機関で受けられるようにする制度

メディカルスタッフへのメッセージ:様々な患者さんの姿を力に

がんゲノム医療は難しそうと思う方が多いですが、最近では研修も多く開かれるようになってきたので、研修会などを活用し理解を深めていくことができると思います。

私は看護師として患者さんと関わる中で、約9割が治療に繋がらない検査のため、検査を受ける意義に私自身悩んだこともありました。しかし、約1割の方は治療につながっており、新たな治療がみつかった喜びや治療薬を投与し治療が効いた喜びなど患者さんの実際の声を聞くとよかったと思うことがあります。また、治療に繋がらない場合でも、辛い事実を受け止め、自分の気持ちに折り合いをつけて次のステップへ切り替え、この検査がギアチェンジについて考えるきっかけになった方もいらっしゃり、検査を受ける意義を感じたこともありました。

検査を希望される患者さんの背景は様々です。チームで役割分担を行い、実践を積みながら自分の専門性を発揮していけるといいと思います。

INCY026M-01(2024年1月作成)

 
がんゲノム医療

 

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