Vol.2 東京医科歯科大学病院 がんゲノム診療科/遺伝子診療科
認定遺伝カウンセラー 高嶺 恵理子 さん  がんゲノム医療コーディネーター 横堀 潤子 さん

タイムリーな紹介・相談を可能にするための院内フローをチームで確立

シリーズ第2回は、2017年にがんゲノムプロファイリング(CGP)検査をスタートさせ、現在はがんゲノム医療拠点病院として、連携する4施設との提携の下で900症例以上の検討に取り組んでこられた東京医科歯科大学病院 からのレポートです。予後の限られた患者さんが多いなか、タイムリーな患者さんの紹介、納得に基づく検査、ご家族の理解を進めるためのチームの取り組みを中心にご紹介いただきます。
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チーム構築の経緯:役割の明確化とメンバー間の尊重&協働を支えに

東京医科歯科大学病院では、2017年に自由診療でのがんゲノムプロファイリング検査(CGP)を始めました。2019年以降にはほとんどが保険診療でのCGP検査になりましたが、全て合わせると2024年3月1日時点で959件(臨床研究を含む)のCGP検査を行っています。40歳未満のAYA世代は5%、男女比はほぼ同様で、歯学部を有する当院では頭頸部がんが12%を占め、希少がん症例が比較的多いのが特徴と言えます。

当院は、がんゲノム医療連携病院を経てがんゲノム医療拠点病院となり、現在4つのがんゲノム医療連携病院と提携しています。当院と連携している4施設を含めると、これまで当院のエキスパートパネルでは900症例以上の検討を行いました。

がんゲノム診療科には医師、バイオインフォマティシャン、がんゲノム医療コーディネーター(CGMC)、認定遺伝カウンセラー(遺伝子診療科との兼任)、事務員のメンバーがおり、院内の全てのCGP検査を管理しています。CGP検査に伴う検査会社やがんゲノム情報管理センターとのやりとり、エキスパートパネルの運営、病理部門・検査部門との連携を取るなどしながら、検査がスムーズに行えるよう日々診療を行っています。

がんゲノム診療科に受診する患者さんのほとんどは院内の患者さんで、他施設からCGP検査目的で受診される患者さんは約15%です。他施設からの紹介や検体が他施設にある場合、資料や検体の取り寄せはがんゲノム診療科のCGMCが行っています。また二次的所見と呼ばれる遺伝性腫瘍に関連する遺伝子が検出されたときには、認定遺伝カウンセラーが仲立ちとなって遺伝子診療科と共に患者さんとそのご家族を支えています。CGP検査では多くのレポートや報告書を扱いますが、バイオインフォマティシャンが分析・オートメーション化したシステムを用いて事務員がレポート管理やエキスパートパネルの運営を行います。当院でがんゲノム医療がスムーズに行えているのは、このようにひとりひとりが役割を遂行するとともに、他のメンバーを尊重し協働できているからだと思っています。

     

検査への理解と納得を得るため:CGMCからじっくり時間をかけ、医師から重ねて説明

当院のかかりつけ患者さんの場合、各診療科の主治医ががんゲノム検査を行った方が良いと判断した時にCGMCに連絡します。多くの場合その日のうちに検査の説明を行い患者さんが検査を希望したら、検体の確認・手配、がんゲノム診療科の外来予約などの検査の準備を行います(図参照)。検査の準備が整ったらがんゲノム診療科の外来で医師からの再度の説明を行い、検査の同意確認・取得をして検査に提出します。当がんゲノム診療科の特徴は、最初にCGMCからじっくり時間をかけて説明を行い、外来でも医師が説明を繰り返すことで検査をしっかり理解したうえで検査に臨めるようにしている所です。わかりづらく、かつ治療に結びつく可能性が高いとは言えない検査だからこそ、納得して検査を受けてほしいという気持ちからこのような流れにしています。

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院内フローの構築まで:院内メールやポスターを駆使した院内周知も

当院のがんゲノム診療科は2017年に、医師、がんゲノム医療コーディネーター(看護師)、認定遺伝カウンセラー、事務員の4名で発足しました。

当時は、国内における勉強会なども少なかったため、海外の教材を利用し、勉強をしていました。CGP検査は自費診療で、現在ほど明確化された検査フローなどはなく、全てが手探り状態でした。そのため、マニュアル作成をし、体制を整えていく必要がありました。2017年の時点では、がん治療におけるCGP検査の概念が出始めた頃であり、院内での周知活動も積極的に行いました。関係する診療科のカンファレンスに参加したり、エキスパートパネルの開催案内を院内メールやポスターでお知らせしたり、また、がんゲノム医療についてのミニレクチャーの時間を設けたりなど、がんゲノム医療に馴染みがない医療者でも関わりやすくなるよう心がけました。スムーズに患者さんを紹介してもらえるようになるまでに半年ほど時間はかかりましたが、徐々にCGP検査についての理解が広がっていくのを肌で感じることができました。また、発足時から認定遺伝カウンセラーががんゲノム診療科と遺伝子診療科を兼任しており、CGP検査で遺伝性腫瘍が疑われた場合、両診療科の外来で一貫して関わることで、スムーズな連携が可能になりました。

    

スタッフ間の連携強化:RPA※ やSlackによるコミュニケーションのサポート

2019年6月に保険診療となってからは、がんゲノム連携病院として規定された通りにCGP検査を進めていくため、マニュアルの改定を重ねました。マニュアルでは各スタッフの役割を明確にし、担当者が不在時でも他のスタッフが対応できるようにしました。その後、がんゲノム医療拠点病院に指定されたため、エキスパートパネルの開催なども含めて、新たな体制で進められるようにマニュアルの変更を行いました。CGP検査ではデータ登録などの作業が多いことから、RPAを導入し、スタッフの負担軽減にも繋げることができました。

2024年3月現在は、上記に記載した通り複数の職種が在籍する12名の組織となっています。週に1回のミーティングで情報共有をし、それ以外にもコミュニケーションツールであるSlackを使用して連絡が取りやすい環境があります。一つの部署に多様な職種がいるため、職種を超えての相談・議論が気軽にできる点が強みとなっています。

RPA:Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)の略称。 
RPAツールと呼ばれるソフトウェアを使って、単調で繰り返される業務プロセスを自動で実行する技術。診療科内にあるパソコンに企業と共同開発したRPAを組み込み、データ処理システムを構築。検査結果やレポートのダウンロード・アップロード、ファイルコピー、遺伝子変異情報などのデータベースへの転記など、手作業ではミス発生リスクが大きい単調な業務を自動化することで安全性の向上と効率化を図っている。

     

Caseをもとに考える:遺伝カウンセリング受診のハードルを下げる重要性

 ※※BRCA2遺伝子は遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)の原因遺伝子として知られており、この遺伝子の変化が
   ある未発症者血縁者には、一般の方よりも頻繁な検診などが望ましいとされる。

がん遺伝子パネル検査では、遺伝性腫瘍についての情報が分かることがあるため、血縁者にも影響を与える可能性があります。それゆえ、検査を受ける前からご家族も一緒に検査説明を聞くことが望ましいとされています。当院でも、ご家族の同伴を推奨しており、検査で遺伝性腫瘍が疑われたり、明らかとなったりした場合には、結果説明の際に認定遺伝カウンセラーが同席し、遺伝カウンセリングの受診を提案します。認定遺伝カウンセラーが同席することで、遺伝カウンセリング受診のハードルをさげるだけでなく、遺伝性腫瘍であった場合のその後について事前に要点を伝えることができます。Hさんのように、HBOCが疑われる状況で、娘さんがいる場合には、HBOCかどうかを確定させておくことの意義は大きいと考えられます。しかし、遺伝性かどうか確定させることを躊躇する患者さんもいるため、患者さんと頻繁に接する担当医やがんゲノム医療コーディネーターなどとも協力して、ご家族への理解を促すことも重要です。

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メディカルスタッフへのメッセージ:タイムリーな紹介フローとチーム連携の強さが鍵

認定遺伝カウンセラーは、遺伝性腫瘍だけでなく、出生前検査や神経筋疾患、循環器疾患など、その他の遺伝性疾患についても対応しています。ただ、遺伝性腫瘍はその中でも、大きな部分を占めており、がんゲノム医療での関わりも重要だと考えています。

遺伝性腫瘍は、がん患者さんの5~10%程度と言われており、既往歴や家族歴に関わらず、CGP検査で疑われることがあります。CGP検査の前に、遺伝性腫瘍の可能性が示唆された場合に告知を受けるかどうか意向の確認がありますが、実際に告知を受けると動揺する患者さんが多い印象を受けます。遺伝性であることを確認することは、治療の選択肢に影響しないことも多く、治療と切り離してご家族のことを考えなければなりません。 また、治療に専念したいなどの意向から、遺伝カウンセリングの受診に繋がらないこともあります。しかし、遺伝性腫瘍の中には、血縁者への対策が可能な疾患もあるため、患者さんが遺伝カウンセリングの受診を見送る場合は、その点も含めてご理解いただく必要があります。時には後から考えを変えて、遺伝性腫瘍の精査を希望する患者さんもいます。ただ、認定遺伝カウンセラーは患者さんの治療に付き添うわけではないので、関わる医療者との連携を通じ、患者さんをタイムリーに紹介してもらうフローを確立させておくことが重要です。

CGP検査を受ける患者さんは、予後が限られている方が多く、その連携の強さが求められると感じています。一般的に、認定遺伝カウンセラーは院内に1人から数名しか在籍していないことが多いですが、必要時には積極的に紹介や相談をしていただければと思います。

INCY030M-01(2024年4月作成)

 
がんゲノム医療

 

 

 

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