立ち上げ当初から病院一丸の体制整備が行えた要因とは? 各職種が専門性を活かし協働
2024年3月までのCGP検査数は組織検体、血液検体合わせて606件
兵庫県立がんセンターでは、2018年より自由診療によるがんゲノムプロファイリング(CGP)検査を開始しました。2019年には保険診療でのCGP検査を開始し、2024年3月までに組織検体を用いたCGP検査は527件(FoundationOne 487件、GenMineTOP 22件、NCCオンコパネル18件)を実施しています。胆管がんや肉腫などの融合遺伝子の検索が必要な症例ではGenMineTOPが選択される傾向があり、免疫チェックポイント阻害薬の未治療の症例では遺伝子変異量(TMB)が算出され、NCCオンコパネルより解析遺伝子数の多いFoundationOneが選択されています。また、組織量が少ない症例や検体保管期間が長い(3年以上)症例では血液検体を用いたCGP検査が選択され、同期間で79件(FoundationOne CDx Liquid 63件、Guardant360 CDx 4件)が実施されています。このように当院では、患者情報や検体情報を加味してCGP検査を選択しています。
2018年7月から2023年6月までの集計では治療到達症例は全460例中47例であり、約10.2%でした。
現在のがんゲノム医療チームの役割
当院のがんゲノム医療チームは医師、看護師、臨床検査技師、認定遺伝カウンセラー®、事務職員などの職種で構成されています。様々な職種が異なる役割を担いつつ、互いに連携しながら業務を進めています。
医師* | CGP検査を提出する患者さんの選択・検査の同意取得・結果説明、病理標本の評価、レポート結果 の解析 *:主治医、ゲノム担当医、病理医、研究医 |
看護師 | CGP検査を提出する患者さんの外来対応・意思決定支援・他院紹介症例における患者面談※ |
臨床検査技師 | 検査に提出する組織検体のチェック・検査提出標本作製・院内症例における患者面談※ |
認定遺伝カウンセラー® | 二次的所見についてのレポート結果確認・家系情報の分析・二次的所見が見つかった際の患者対応 |
事務職員 | がんゲノム情報管理センター(C-CAT)などへの情報登録・他院との事務的な連絡・事務的業務 |
※:全ての症例でCGP同意取得前に患者面談を実施 |
兵庫県立がんセンターのがんゲノム医療の業務フローと多職種連携 | |
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CGP同意取得前に看護師・臨床検査技師で全患者さんとの面談を実施
当院では、全ての症例に対して事前に面談を実施しています。患者面談において患者情報の確認、CGP検査の説明、家系情報の聴き取りなどを行うことで、医師による同意取得前に患者さんの理解が深まり外来診療を円滑に進めることができます。他院からの紹介で初めて当院を受診される院外の症例は看護師が対応し、事前に体調や検査に関する気がかりや認識を確認し、医師と共有しています。また、ある程度患者情報が得られている院内症例は臨床検査技師が対応しています。月に平均15例程度の患者面談を行っており、患者さん一人ひとりに検査への理解がしっかりと得られるように取り組んでいます。
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がんゲノム医療チームができるまで:
ゲノム医療担当次長である医師のリーダーシップで病院一丸となって準備開始
当院では以前よりがん看護専門看護師(OCNS)や認定遺伝カウンセラー®が遺伝性腫瘍の診療に携わっており、また院内の遺伝子検査業務を臨床検査技師が担当していたこともあり、遺伝子検査に対して比較的知識のある人材が揃っていました。さらに、OCNSは、がんゲノム医療が始まることを厚生労働省から情報収集していました。これらの背景もあり、診療部、看護部、検査部などの関係者でワーキンググループを組んでがんゲノム医療提供体制の準備に取りかかりました。その際、ゲノム医療担当次長の医師が看護師長会議でがんゲノム医療についてプレゼンテーションを行い、OCNSを中心に看護師に患者支援をしてほしいと看護部の理解や協力を求めてくれたことで、看護部としてもがんゲノム医療に力を入れるという方針が固まっていきました。
がんゲノム医療チームができるまで:
状況に応じて役割分担を行い、徐々に大きなチームへ
2018年よりがんゲノム医療外来を開始しましたが、当初は腫瘍内科医師、看護師、臨床検査技師、認定遺伝カウンセラー®の4名で担当し、看護師が理解の確認や意思決定支援、臨床検査技師が検査説明、認定遺伝カウンセラー®が家系情報の聴き取りを行った後に、腫瘍内科医師が診察をしていました。2019年に保険診療となり検査件数が大幅に増加してきたことから、専従のがんゲノム医療コーディネーター(CGMC)を雇用することとなり、診察前の理解の確認や意思決定支援、検査説明、家系情報の聴き取りをCGMCと臨床検査技師が患者面談として担当し、がんゲノム医療外来を医師、CGMC、看護師の3名で担当するようになりました。その後徐々に、診療科によっては主治医がCGPの同意取得を実施するようになりました。2024年からは専従のCGMCの退職に伴い、患者面談を看護師と臨床検査技師で担うことになり、現在の役割となっています。
👉POINT | 多くの要因が上手くかみ合って現在のチーム医療体制が構築されました。 ① 診療部が看護部に参画を要請した。 ② OCNSが遺伝性腫瘍診療に携わり、がんゲノム医療が開始されることを察知して準備に取りかかれた。 ③ 検査部が検体取り扱い業務だけでなく患者支援に参画した。 |
| ロールプレイやマニュアル作成などをベースにLevel up |
以前は、臨床検査技師は患者対応を行う機会がほとんどなかったため、医師の外来や遺伝外来などへ見学に行き、患者対応、家系情報の聴き取り、言葉遣いなどについて教わりました。また、ロールプレイを行い、模擬患者さんにて意思確認、検査説明、家系情報の聴き取りなどを行い、フィードバックを得ながら少しずつ患者対応について学んでいきました。2か月に1回、がんゲノム担当医、CGMC、臨床検査技師でミーティングを行い、最新のゲノム情報について共有したり、各自対応の難しかった症例について報告し合い、議論しました。 |
👉POINT | 患者面談の際よく質問される事項について話し合い、共通の答え方ができるようQ&A集を作成し、マニュアル化も進めました。 |
| 委員会・研修・外来見学などへの参画で理解や関心が向上 |
看護部ではゲノム・遺伝看護委員会の活動、教育研修、がんゲノム医療外来の見学、外来看護師のがんゲノム医療への参画推進などさまざまな取り組みを行い、看護師のがんゲノム医療への理解や関心は向上してきました。 |
👉POINT | 看護師が参画し始める当初は看護師の中にもわからないことに対する不安がありましたが、日頃実践しているがん看護と変わらないというメッセージを伝え続け、実際に患者さんと関わる中で学びを深め苦手意識を克服してきたと思います。 |
CGP検査を希望される患者さんには?
<院内症例の場合>
検査の希望があった場合、各科のカンファレンスでCGP検査の保険対象となるかを確認し、主治医が組織検体の事前チェックを依頼します。組織検体の事前チェックでは、臨床検査技師と病理医がCGP検査に提出できるか、どのCGP検査を推奨するかの判断を行い、結果を返却します。それをもとに主治医が、組織検体を用いたCGP検査あるいは血液検体を用いたCGP検査にするかをある程度判断した後に、患者面談の依頼をします。患者面談は1時間半ごとに予約枠が設定されており、依頼された日時に臨床検査技師が面談を行い、患者さんの希望などがあれば主治医に伝えます。ここで主治医の考える検査と異なる検査を希望された場合は、直接患者さんと話してもらい、時には再度生検を実施することもあります。その後、主治医もしくはゲノム担当医がCGP検査の同意取得を行い、検査が進んでいきます。
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<院外症例の場合>
当院のホームページのがんゲノム医療の案内に紹介方法が掲載されており、必要書類の様式もダウンロードできるようにしています。ここに後述する看護情報提供書の様式もあります。
医療機関からの紹介に関しては、必要書類を地域医療連携室に送っていただき、ゲノム外来担当の腫瘍内科医師が内容を確認して、カンファレンスで保険診療の対象となるかを検討しています。保険診療の対象になりそうと判断された場合は、組織検体を送っていただくなどの手続きを開始し、予約調整を行っています。事前の検体チェックは院内と同様の手順で行っています。予約が確定した患者さんには、家系情報の事前確認用紙が送られるので、問診票とともに記入し外来受診時に持参してもらうことになっています。
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患者さん自身がCGP検査について相談を希望される場合、当院ではがん相談支援センターが窓口となっています。相談の結果、CGP検査を受けることを希望する場合は主治医と相談してもらい、医療機関からの紹介を受けています。
当院のがんゲノム医療外来は、検査説明・同意取得と結果開示の2回の受診が必要となっています。結果開示後の治療方針の相談は紹介元医療機関の主治医と行っていただきます。
Caseにみる課題
| 検体の残存組織量が重要!標本や病理ブロック送付を依頼 |
症例:Fさん50代男性、原発不明癌。PS=0 組織検体でCGP検査を提出する際には、未染標本を作製する必要がありますが、今回の症例のように、生検などの微小な検体では診断時に十分な組織量があっても、免疫染色や遺伝子検査を実施すると組織量が減少してしまい、残りの組織量では検査に提出できないこともあります。特に、他院から標本や病理ブロックを取り寄せる場合、標本のみ送られてくることもありますが、残っている組織量を病理ブロックで確認することがとても重要です。そのためにも、当院では標本や病理ブロックの送付を他院へ依頼する際には、検体に関する詳細事項を記載した説明文書を一緒に同封するようにしています。 |
| 体調が良いタイミングでCGPの紹介をお願い |
がんゲノム医療外来の初診時に、診療情報提供書に記載された体調やPSよりも悪化していて、保険診療の対象とならない場合など、受診してもらってもCGP検査を受けられずに紹介元医療機関に戻っていただく事例がときどきあります。中には、紹介元に入院中で絶飲食、点滴中、イレウスチューブ留置中で、病状の悪化による症状のため改善の見込みが立たない状況で受診された事例がありました。このような場合には、できるだけ検査の概要や保険診療の対象とならない理由などを丁寧に説明し、ご理解いただけるように努めています。しかし、受診するだけでも患者さんやご家族には負担となるため、このような事例が紹介されることを未然に防ぐことが課題と感じています。院内ではCGP検査を提出するタイミングやどの程度治療に繋がるかなどについて理解が深まってきていますが、紹介元となるゲノム医療非連携病院ではまだまだ悩みながら紹介している状況なのではないかと推察されます。標準治療終了見込みが保険適用の条件となっているとはいえ、体調がよくないと検査結果が出た際に新たな治療に挑戦することが困難となるため、体調がよいタイミングで紹介していただく必要があります。そういったことの理解が広まるようにがんゲノム医療拠点病院として取り組んでいく必要があると感じています。 |
メディカルスタッフへのメッセージ
| 専門性を活かしながら、多職種連携をすることが大事 |
臨床検査技師は患者対応を行う機会が少なく、不安に思う部分もありましたが、患者面談を続けるうちに、遺伝子検査や病理組織検体に対する知識を生かして詳細な説明ができるようになり、自信が持てるようになりました。また、実際に患者さんと会って話すことでCGP検査に提出する標本作製の際のモチベーションも上がってきました。そのため、様々な職種が積極的にがんゲノム医療に関わり、それぞれの専門性を生かしながら連携していくことが重要であると考えています。
| 看護情報提供書を活用した看看連携を行い、意思決定や結果の受け止めを支援していくことが大事 |
当院では看護情報提供書の運用をしており、患者さんの紹介元医療機関の看護師から情報提供を受け、受診後には外来での反応や継続看護が必要なことについて返書を送る取り組みを行っています。看護情報提供書の内容から、生活の様子がわかりPSが判断できたり(医師も非常に参考になると言っています)、治療や検査についての認識が把握できたりして初診時の介入に役立っています。また、検査の説明や結果を聞いた後の患者さんの反応や気持ち、継続看護が必要な情報を返書として送ることで、紹介元医療機関の看護師から「がんゲノム医療に対する理解が深まった」「患者さんと関わるモチベーションがアップした」といったフィードバックをいただく機会もありました。こういった看看連携も重要だと考えています。
CGP検査は、標準治療終了見込みという状況で受けられる検査のため、患者さんは身体症状や病状に対する気がかりなどさまざまな葛藤を抱えていることも多いです。さらに、CGP検査により、治療に結びつく確率は10%程度であり、90%は治療に繋がりません。治療に繋がらなかった場合は落胆されることもありますが、気持ちに折り合いをつけたり、納得して緩和医療に専念することを意思決定される患者さんもいます。看護師としては、このようなことを理解して、患者さんの意思決定や結果の受け止めを支援していくことが大事ではないかと思いながら日々チームで関わっています。